パン屋さんの「天然菌」 と 「マルクス」 の話

岡山県真庭市勝山にあるパン屋さんのお話しです。

真庭市は藻谷浩介著:「里山資本主義」(角川書店)に登場してました。


田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

著者の渡邉格(わたなべいたる)氏は10代、20代の頃世の中が虚しく、
少々荒れていました。

ふとしたきっかけで農業に興味を持ち始め、大学は農学部へ進学。

卒業後就職した先で出会った今の奥様と結婚し、パン屋さんを立ち上げます。
そして徹底して天然菌にこだわったパンを追求していきます。

パン屋さんとマルクスがどのように関係があるのか。

著者は世の中に疑問をいだいていた頃 マルクスの「資本論」を読み始めました。


労働力について 一部引用すると、

                                                                                                    • -

(労働力が商品になる)もうひとつの条件が、労働者が「生産手段」をもたないこと。

「生産手段」というのは、機械や原材料などの、「商品」をつくるために必要な、
「労働力」以外のものを指す。  

労働者が、自前の「生産手段」をもっていたら、自分で「商品」をつくって
売ることができる。  

それをもっていないから、労働者は、自分の「労働力」を売るしかない。 
そしてこき使われるのだ。」

                                                                                                  • -

というわけで 渡邉格氏は自前の「生産手段」をもつために 自分でお店を
開くことを決意したのです。


一番面白かったのは「菌」についての話。

イースト」は製パンに向いた酵母を選び出し、純粋培養されたもの。
ひ弱で味が単純になりがち。

天然酵母」は野生の菌を増殖したもの。
何種もの菌が競争し合うので逞しく、味も複雑になります。

自家製天然酵母を使っているパンは手間がかかる分、値段は当然高くなります。

納得してその高い商品を買う行為は 文化的、社会的意義を評価する
ということを意味します。

著者は原材料も燃料も可能な限り地産のものを使い 地域の中で経済を
廻していく重要性を強く説いています。

そして「ブランド」は本物を追求した結果自然に生まれるものであって
ブランドありきのものではないと言います。 
大いに考えさせられるひと言でした。