山崎豊子著  「花紋」

9月末に逝かれた山崎豊子氏の小説「花紋」
読んでみました。

花紋 (新潮文庫)

花紋 (新潮文庫)

明治末から昭和の終戦直後までの封建時代に
生きる河内長野(大阪)の大地主の総領娘の
激しくも悲しい物語。

息苦しいほど自由がない社会。
そして「許し」の入る隙がない社会。

類まれな美貌を持って生まれた葛城郁子(歌人)と
祖父、両親、そして息子の4世代の間に少しでも
「許し」があれば葛城家は救われたかもしれません。

葛城郁子の母は嵌められて離縁させられますが、
元々は祖父の妾の子、つまり夫の異母姉妹を
差別し、邪険に扱っていたのが原因なのです。

葛城郁子の夫は葛城家の当主となることが誇りで
結婚したというのですから 辛くても妻の言動に
眼をつぶり 凛として当主を貫き通していたならば
きっと結婚生活も違っていたでしょう。

桁外れの大地主であった葛城家。
一般の家庭とは全く違います。

そこに婿養子として入るのであれば それくらいの
覚悟や犠牲があっても不思議ではないと思えるのです。
 

ではもし葛城郁子が国文学者の荻原秀玲と
結ばれていたら 幸せになれたのでしょうか。

葛城郁子は9歳年下の妹が生まれた時、綺麗な子でないと
邪険にしたり、老婢と呼ばれる付き人の”よし”に
初めて会った時に強い拒否を示したりと子どもの頃から
激しい感情を持っていました。

それは人並み外れた美貌と絶対に逃れられない将来の
当主という運命を背負っていたからかもしれませんし、
元来持って生まれたものかもしれません。

一方恋仲であった荻原秀玲は「何事によらず学問以外の
複雑さからは出来るだけ逃れ、学問をする
純粋な静かさを侵されたくない」と考えていた人です。

そんな二人が仮に一緒になっていたとしたら一体どのような
生活を送ったのかとても興味のあるところです。

まるで大名家のような大地主の葛城家は何事にも妥協を
許すことはできないのですが 世間も葛城家に厳しい目を
向け、決して甘えを許さない階級社会の時代でした。

そんな緊張を強いられている家族の中で素直で明るい妹と
最期までお慕いそして淡々と仕えた”よし”の存在は
大きな救いです。